ダークナイト ライジング ネタバレ感想

個人的に「世界最高の探偵としてのバットマン」が好きで、また、ノーランはバットマンを探偵として描く監督なので、「バットケイブでコンピュータを使い指紋分析をおこなうブルース」がはじめて彼の健在ぶりを明らかにするシーンだったことがうれしい。

 

アルフレッドがベインのオリジンを語り出す。なぜだ!? 『マッドラブ』の冒頭でハーレイを説明するシーンのように、ブルースがベインについてアルフレッドに説明したほうがすっきりする。このシーンで脚本が「筋を通すつもりはありません。この映画には変な所があります」と表明しているのかもしれない。核融合炉はいかなる原理か爆発するし、折られた背骨はすぐ治るし、ラブシーンが唐突だったし、ツッコミどころはいっぱいあるのに、勢いで押していく。ツッコミどころをあえて残したほうが「え? え? ま、まあいいや! 細かいことは!」と客を納得させ、物語にゴリ押しの気迫が生まれるという判断かもしれない。

 

ブレイク刑事がロビンだろうというのは噂になっていたけれど、比較的はやい段階で「孤児でバットマンの正体を理解している」と語り出して、隠す気ないじゃん!とニヤニヤしてしまった。歴代ロビンの特徴を複数かねそなえている。本名がロビンだというのが物語の一つのオチになっているけれど、ロビンがバットマンのサイドキックであり後継者だということが、日本で、そして本国でもどれくらい周知されているのか気になるところ。

 

ベインは良かった。証券所の襲撃シーンにはジョーカーにも負けないカタルシスがあり、仮にこの男が前作のようにふたつのタンカーに爆弾をセットしたら、ゲームなど仕掛けず、またバットマンもたやすく撃退し、容赦なく起爆するのではと思わせる迫力があり、かつ知恵も働き、人心をも操る。

 

予告の段階でベインがハービー・デントの真実を市民に暴露することは明らかになっていて、どんな手段を使いトゥーフェイスの犯罪をあばくのだろうと思ったら、ゴードンのボツ原稿を読む。冷静に考えたら説得力に欠けるが、納得してしまうのは前作の根底をくつがえしてしまう衝撃と演出のうまさか。もしかしたら、『バットマン・リターンズ』のペンギンの失脚シーンへのオマージュがあったのかも。

 

ベインが薬を使ってパワーアップしているというコミックの設定はオミット。評価したい。肉体と頭脳を極限まで鍛えぬいたという意味で彼はバットマンと対になる存在なのだし、ノーランはドーピングなど認めないだろう。撃たれれば人は死ぬのだ。刺されても生きてるけど…。

 

ハービー・デントなんかいらんかったんや! バットマンこそゴッサムのヒーローや! ダークナイトの像を建てよう!! ここまで前作を否定できるのはスゴイ! 少しでもテーマが経済格差などシリアスな方面に向かうと、すぐさま軌道修正するのもよい。

 

 

Twitter にも書いたけど、このシリーズのバットマンクリストファー・ノーランの投影とみることができる。「ノーランは天才ではなく秀才である」という意見をよく聞く。実際、『バットマン ビギンズ』で分かるように、彼は「ヒーローもののお約束だから」「かっこいいから」という感覚をみとめず、ひたすらに理詰めだけで映画を撮った。そこからぼくは、監督の熱意や知性よりも、監督の自身の表現能力への不信と絶望を感じ取ってしまうのだ。クリストファー・ノーランが天才ではないともっとも感じているのは、ほかならぬクリストファー・ノーランなのではないか。

 

ノーランは前作のメイキングで「信念があれば誰でもバットマンになれる。それが彼の魅力だ」と語っていた。まさにその点について、ノーランはバットマンに自分自身を重ねあわせているのだろう。「人が何者であるかは内面ではなく行動で決まる」という『ビギンズ』でバットマンがレイチェルから引き継いだ言葉は、たとえその人が天才でなくとも、天才の仕事をすることはできるという監督の決意ではないか。

 

 

その信念にもとづき、また自身の才能を信じず、『ダークナイト』を撮ったノーランの最後の仕事は、伝説を壮絶に終わらせることだ。『ライジング』でバットマンは後任監督の象徴たるロビンに「ヒーローには誰もがなれる」と伝え、すべてを譲る。これは、クリプトン人やアマゾンの戦士でなくともヒーローになれるものであり、そしてすぐれた作品を世に出すことは天才でなくともできることだという後任者へのメッセージだろう。

 

バットマンは天才であってはいけないし、バットマンの宿敵も同様で、また、薬で体を強化するようなことがあってもいけない。背骨が治ってしまったことに誰もがつっこむ。つっこむだろうが、しかし、ぼくは『キングダム・カム』の世界でベインに背骨を折られたブルース・ウェインがギプスと強化スーツをつけて活動していて、「アイアンマンじゃないか…」と失望したのだ。バットマンは凡人であり、人間でなければいけない! 肉体を強化する小細工をしてはイカンのである。

 

不満:

スケアクロウの医師設定はどこかで活かしてほしかったです。